辞世



サヨウナラ。

 三笠空は、カラカラと秋の空みたいな笑い声を立ててあたしの目の前に崩れ落ちた。
「ダメかもしんない」
 真赤に染まった夕焼空みたいに真赤な液体を全身から滴らせながら、三笠空は何が面白いのかまたカラカラと笑った。
「俺の辞世の句…」
 キリキリの線で、あたしの腕につかまってバランスを保ちながら膝で立つ三笠空は、三笠空を見下すように見詰めるあたしの瞳をきっと、見据えた。
「面白きこともなき世を面白く…」
「パクリじゃん」
 三笠空の苦しそうな声が懸命に紡ぎ出した言葉をあっさりと跳ね返す様にあたしは言った。
でも、実際パクリなんだから仕様がない。
「自分の句を作りなよ、三笠空」
「ダメだよ、もう頭が回らないし…何より、俺には句を作れるだけのセンスもアタマもねーや」
 苦しそうに、それでもクククク…と笑い、三笠空はガクンと地面に顔を打ち付けた。
「いてぇ」
「人間五十年…だっけ?あんたなんか、まだ二十年も生きてないわ」
「つか、喧嘩で死ぬなんて恰好悪ぃ。なにより、俺って勝ったんだよな?」
 そう。三笠空は喧嘩をしたのだ。喧嘩をして、ナイフで刺された。でも、その後相手を全員ボコしたりなんかせずに病院へ行けば助かったのに。
「もののふの道とばかりに一筋に思いたちぬる死出の旅路…なんてね」
「バカじゃない。いつから武士になったのよ。散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ…よ」
「つか、こういう小粋な会話を楽しんでいる間にも俺って、死へ一歩ずつ近づいてるんだよね」
「小粋かどうかは知らないけど、あたしだって老いて死んでいくのだから同じよ」
「ぜってー違うし」
 それでも、笑う三笠空。やっぱり、三笠空のジセイノクは”面白きこともなき世を面白く”これでよかったのかもしれない。
だって、この男には自分で句を作るなんてたいそうな事も出来ないし、なにより下の句がないのが今の三笠空にはぴったりだ。
「今、お前の考えてる事が超判る気がするぜ…ケケケケ」
「その笑い方止めてよ」
「いいんだよ。俺は笑って死ぬ」
「笑ってのたれ死ぬのね。実に愚かだわ」
「潔いと言ってくれ。やべぇ…マジで句が思いつかねぇ…」
「あら…本気で考えていたのね。知らなかったわ」
 軽口を吐く三笠空の手が微かに震えているのが判る。
もう、マジでヤバイのだ。
「病院…行きたい?」
「行っても死ぬだけだろ。あ…目の前が暗くなってきたぜ。さっきまで赤かったのになぁ…最後に積木篠子の顔が見たかったな」
「あら、あたしなら目の前に居るわよ。もう、見えないでしょうけど」
「ハハハハハ。もうお先真っ暗だ。願わくは花に下にて春死なむ…なんてね」
「あんたの人生、最後まで他人任せね」
「何だよそれ」
「ジセイノクまで他人のもの」
「ハッハッハ。積木篠子、てめぇも死ね」

「厭よ」
 三笠空は、最期に笑った。
「あ、篠子にCD返してなかったわ。テキトーにパクってって、俺の部屋からさ…ハハハハハハ」
 こういうバカな人生も、この男・三笠空に限りいいんじゃないかって思うんだ。


end