紫陽花賛歌



朝起きて、マリファナを吸ってクラックでイく。そしてまた眠りに就く。
そういえば今日はいつだっけ?

「先生、あたしのクスリってどこ?」
あたしは見付からないマリファナとクラックの在処を先生に聞く。
「捨てたよ」

あたしは薄く紅梅かかった生地に真赤な紫陽花を描く。気持ち良くトんでる、あたしはきっとステキな花を描くだろう。

あたしはイライラしながら、先生のハイライトに火を付ける。こうしてニコチンが体に充満するんだわ。俯瞰・血液処理。
「信じられないわ」
本当に信じられない。
「高かったのよ」
本当に高かった。クラックなんてコカより高いのに。
あたしは飲みかけのコークの缶に吸ったばかりの煙草を捩込む。ジュッ、と音を立てた煙の源は最期の一息を細々と吐き出す。
「マリ。君は、あんな物がないと描けない訳じゃあ無いだろう」
先生と出会う前、クスリの味なんて知らなかった頃のあたしが描いた牡丹の帯を引っ張り出して来た先生は、あたしからハイライトを取り返した。
「それとこれとは話が違うわ。今のあたしには、あれが必要なの」
言った後に思った。無ければ無いで構わない。だって、あたしは狂いそうな位、まだ正常何だから。
「マリ、バイトばかりしていないで大学に行きなさい」
「命令形であたしにモノを言わないで」
あたしはコークの缶を先生に投げ付ける。赤茶色のどろどろした液体と潰れた吸い殻が剥き出しのコンクリートの床に散らばった。
あ、勿体ないなぁ…あたしは他人事のように傍観した。
「勿体ないと思うなら止めなさい」
「サイテイ」
あたしは逃げ出すように、部屋から駆け出す。逃げている訳じゃあ無いわ、と心の中で繰り返しながら。

深夜一時に起きて、セブンスターを吸ってカフェイン・ハイをキメる。
少しだけ、煙にむせって、少しだけ、涙を流す。あ、初めての時みたいだわ。
「チェーン・スモークは止めなさい」
「アルカホリックに言われたくないわ」
 あたしは先生の飲むキュンメルの壜を机から払い落とした。
「止めなさい」
机越しにキスをしたあたしを、先生は押し戻した。その反動で倒れそうになる。
「何をするの」
「私は君の周りの男達とは違う」
「先生、貴方だけは特別だとでも言うの?」
気持ちとは裏腹に瞳に浮かんだ液体を憎らしく思いながら、小さな壜に入った岩絵具を投げ付けた。
真赤な砂状の小さな岩が床に散らばるのを見て、美しいと思いながらも、悲しくなり、悔しくて涙を無表情にも零す。
「先生なんて嫌いよ。先生なんて嫌いよ」
こんな卑怯なことはしたくない。それでも涙は止まらない。止まらない。
あたしは自分の言葉に後悔した。嫌いなんかじゃあ無いわ。あたし、先生が居なくなったら死んじゃう。
「マリ、後悔するくらいなら言うんじゃあないよ」
「先生なんて嫌いよ。大っ嫌いだわ」
セピア色の太陽。何で、そんなにもあたしを責めるの?
あたし、貴方に何かした?

点滅信号が変わらない。あたし、きっと一生ここにいるんだわ。
アスファルトに寝転びながら、誰かが通るのを待つ、あたし。
先生の事を思い出したら、少しだけ体の奥がむず痒くなって、慣れない不器用さで、あたしの小さな胸を揉む。
全然気持ち良くなんて無いわ。

あたしは剥き出しのコンクリートの床に寝転ぶ。お風呂から出たばかりの体はほてって熱い。
ぶかぶかのタンクトップ一枚で寝転ぶあたしは、きっと少しだけセクシーかもしれない。
あたしはあたしが一番気持ち良く成れる場所を知っているわ。あたしは、先生に遊ばれない可哀想な部分に手を伸ばして自分で弄ぶ。
マリファナがあれば。

「マリ、何をやっているんだ」
「ひとりエッチ」
あたしは呟いた。怒られると思ったから。
でも、先生は怒りもせず、キャンバスを広げた。
「何を描くの?」
「オナニーをする君」
最低。そんなの言葉よりひどいじゃない。
あたしは起き上がって、椅子に座る先生のズボンのジッパーを下ろし、萎えたペニスを口に含む。クラックがあれば。
「ヤメナサイって言わないの?」
あたしが顔を上げると、先生はクロッキー帳を片手に、口姦するあたしを描いていた。
「サイテイ」
 あたしは口を放そうとする。
「止めないで」
先生が困ったような声を出した。
「厭味で描いてる訳じゃあ無いよ。一生懸命なマリが奇麗なんだ」
やっぱり先生は最低だわ。あたし、そんなこと言われたら止められなくなる。

朝起きて、カフェイン・ハイをキメて、不精髭の伸びた、先生の顔にキスをする。

少し紅梅かかった生地に真赤な紫陽花を描く。
正常なアタマだろうと、イッちゃってるアタマだろうと、あたしは素晴らしい花を描くだろう。

だって、少しのアスピリンとカフェインがあるから。


end